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ためらいの倫理学―戦争・性・物語 ( 内田 樹 )

 現時点での内田の代表作を一冊選べ、と言ったらこれになるかもしれません(個人的には別のにしたいですが)。あちこちに著者が「書き散らしている」主張のほとんどがここに凝縮されています。<BR> 基本的な著者の視点は「自分を絶対化しない」ということで、自分の正しさを常に疑ってかかる、というところから、宮台真司やスーザン・ソンタグに対する疑義が表出される。ただし、すくなくとも、内田氏自身の著書からこの姿勢を感じ取れるところはすくない。だから、かれの著書は、原稿にされる時点で「これでよいのか?」という自問自答を経ていると解釈すればいいのだと思われる。もうひとつはあまり指摘されていないことだが(そして著者じしんも明言していないことだが)「あたりまえに、常識的に考える」ということだ。業界の常識で世間を眺めるととてつもなくゆがんで見えることがプロフェッショナルにはままある。その陥穽に嵌まらず、専門家ゆえの大胆な問題提起をどうやって行ってゆくのか、そのバランス感覚に著者は優れていると言えるだろう。その結果、「大衆の常識」に合うかたちで話が進んでいるので、ポピュラリティを得ることが出来る反面、衒学志向のつよいひとから嫌われたり、批判的な読みをすることがむずかしくなったりする欠点もある。それは八方美人を目指さない以上は仕方のないことだ。<BR> ただ、読者としては、つねに本書に対しても「どこかおかしいんじゃないの?」の眼を持って読む、ということだけは忘れないようにしたい。

相変わらず続くオジサンの戯言。こういうオジサンに説教垂れられるのが好きな連中は余程のデカダンなわけで。オジサン教祖にあやかってつかの間の安穏を得てどうする? レヴィナス、ブランショに一体何を読み込んでるのやら。。<BR>さてこの著者は「おじさん」ということをウリにしている仏文学者だが、自らを「おじさん」と称することで、ある種の個体存在を先行させることを意味している。それは志村けんが「私が変なおじさんです」と居直るときの機構と同一の先行性である。つまり法や規範に対して、それを逸脱する個体存在の事実性を優先し、そのような個体であることを露骨に提示して居直っている。<BR>というわけで読者は次のことを念頭に置くべきである。この著者の位置取りはレヴィナスとはあまりにもかけ離れて殆ど対極にあるということ。つまりレヴィナスは存在なるものに対する倫理の先行性を思考し、存在論の監牢を突き破るべく存在するのとは別の仕方を模索したのであって、そのようなレヴィナスを「おじさん」なる個体存在の事実性を先行させたうえで道徳講談をするような男が利用している。

 面白かった。特に前半の戦争論のあたり。目からウロコというよりは、自分がいつももやもや感じていたものを、きっぱり言葉にしてもらって嬉しかったという感じだ。現代の多くの日本人が戦争に対して持っている感覚が「ねじれている」こと。そのために気まずくて、いたたまれない気持ちを持っていたことを、きっぱり言ってくれてありがとう、内田センセイ。ねじれていて、中途半端な自分が後ろめたくて、あっけらかんと意志表明するアメリカ人を馬鹿にしたくて、でもできなくて。そういう自分だったのだ。そして、日本が「ねじれ」の処理法として、対立するふたつのイデオロギーに対峙させて内的なねじれを消滅させようとしてきた、という指摘は非常に面白い。<P> 戦争論に比べて後のフェミニズムやポストモダニズムの部分は歯切れが悪くなるけれど、これもこの人の良さかとも思う。要は自分で後書きにも書いているように、「自分の正しさを雄弁に主張することのできる知性よりも、自分の愚かさを吟味できる知性のほうが、私は好きだ」と思う故なのだろう。<P> 非常に哲学的であり元気な論客であるが、こんなにもわたしが共感して読めたのは、彼が文学の価値を高く認めているためかもしれない。<P> 最後まで読んで、この人が書いていることにことごとく自分が共感してしまったので、却って心配になる。彼自身も言うように、「自分は間違っているかもしれないと考えることのできる知性」を、わたしも少しでも持っているならば、こんなにも共感してしまうのはどこか用心すべきところがあるのかもしれない、などと考えたくなるくらいだ。<P> ひとつだけ不満なこと。カタカナ用語が多すぎ。それも英語とフランス語がまざっているので一層読み辛い。せっかくの内容なのに、イデオロギー業界の業界用語をこんなにも多用されたら一般人は読む気をなくしてしまうじゃないの。ふつうに書ける文章力を持つ人なのだから、ぜひふつうに書いてほしい。

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