日本には銃や兵器を論ずるジャーナリズムがない。わずかにミリタリー趣味の雑誌があるが、それは実際の運用場面ではなくワッチング趣味の視点からだ。あるいは世界でもっとも発達したエアガンやモデルガンの雑誌群。まことに希有な国である。<P>本書は、世界でもっとも多く作られたＡＫ４７突撃銃の運用場面を世界各国の現場からルポしたものである。世界を混沌に陥れる銃。子供でも使える優秀なメンテフリーの個人火器。<P>設計者カラシニコフや作家フォーサイスへのインタビュー、リドリー・スコット「ブラックホーク・ダウン」の舞台モガディシオも登場し、映画ではあまり描かれなかった民兵の背景が語られている。「失敗した国家は少数の武装勢力で転覆できる」というフォーサイスの指摘は興味深い。アフリカ諸国のいくつかの国旗にはＡＫのシルエットがデザインされたものがあるが、銃口から生まれた国が今どうなっているか、これまでほとんど報道されなかったのだから、これは非常に良いルポだ。<P>シエラレオネ、ロシア、ソマリア、赤道ギニア、南アと続いた旅は、ソマリアの隣国ソマリランドで完結する。この国は国連からも認知されていないのに独力でＡＫを回収し国家建設を進めている。悲惨なルポが続いた後だけに、読んでて目頭が熱くなる話だ。第三世界を舞台にした「ボウリング・フォー・コロンバイン」というか、私はただの銃器マニアですが、読んで良かったです。マニア的な読み応えもあるし。
カラシニコフの周辺を取材していくことで、国家の存在理由は何かと深く考えさせる良書。<P>平和な日本にいては意識しにくいことだが、国家とは武力を独占しそれにより社会秩序の安定を図る、ある意味市民にとって危険な存在である。その危険な権力に正当性があり、個人の安全を預けられる存在であれば良いが、そうでなければ各自で武装せざるを得なくなり、武装組織が跳梁する内戦状態となりかねない。ソマリア、アフガニスタンなどが、そのような「失敗した国家」の代表例である。本書を読み終わると、政治的に安定した国家に生まれてきた幸福を深く考えざるを得ない。
朝日新聞で連載された、ソ連のカラシニコフが作った世界中に出回る銃ＡＫ47を巡るルポタージュ。<BR>アフリカに出回るＡＫは常に悲劇を生み出してきた。まずはシオラレオネに目を向けます。<BR>村を襲われ、弟を殺され、家族散り散りになった少女ファトマタは少女兵となり、暴行も受けた。<BR>アフリカの失敗国家で常態化している悲惨な現状を、この少女の例から見事に示してくれています。<P>拉致された少年兵、少女兵、手首狩り、南アフリカ、ソマリア、ナイジェリア…悲惨な現状を感情を抑えて<BR>理にかなった道筋を通りながら丁寧にルポしていきます。こうした悲惨な現状を追ったルポタージュは概して<BR>感情が入りすぎたり、主観的な立場からバイアスのかかったものになってしまったりします。<BR>もちろん、そうした要素がゼロではないかもしれません。しかし、非常に意識して行なわれた落ち着いた取材は<BR>非常に素晴らしいと思います。そして、ＡＫの流通経路、カラシニコフへのインタビュー、明快な基準に<BR>基づく「失敗国家」という定義を紹介し、ＯＤＡを単純に行なうことへの警鐘をならすなど、マクロ的な<BR>視点も欠けていません。「朝日新聞」というだけで抵抗がある方も多いでしょう。私の印象なので何も保証できませんが、<BR>上下左右どこにも変な偏りの視点はないように感じます。<P>文章力に優れ、一気に読み進まされてしまう迫力と臨場感をもち、それでいて主観的になりすぎない<BR>筋の通ったルポタージュは圧巻です。これほどに素晴らしいものは読んだことがありませんでした。<BR>そして、失敗国家、などという定義、現状から、アフリカの窮状、日本の現状、そして東南アジア開発を学ぶ学生<BR>として…様々なことを考えさせられました。この本を買って色々な人にプレゼントしたいと思いました。<BR>著者の方、素晴らしいお仕事をなさったと思います。
