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わが悲しき娼婦たちの思い出 ( ガブリエル・ガルシア=マルケス 木村 榮一 )

 別に“主義”って肩に力入れる訳じゃなしに、一生独身でその時その時、娼婦を買って過ごすライフスタイルって憧れるなぁ。ほら、最初から「人は結婚するんだ」って思い込んでるんでもなく、結婚したいのに結果的に出来ないってんでもなく、選択肢として“一生独身”ってのがある、っていう想像力。同じように、既成概念からしたら「90歳で恋愛?」って感じだけど、この“老いらくの恋”は、ほとんど“初恋”と等価、あるいはそれ以上である。「人は自分の内側から老いを感じるのではなくて、外側にいる人たちがそう見なすだけの話」ってフレーズが小説中に2度出てくるけど、確かにジジイだからって、恋、やっぱ、するんだろうな。さらに言えば、“役立たず”になってからの恋ってのが成立するってことは、人間が肉体、本能だけじゃなく、精神、文化みたいなものに依拠してるってことで、良し悪しは別として、動物ではないんだよなぁ。ピュアってのが、本能じゃなしに精神性を指すのであるならば、この老いらくの恋は究極にピュアな恋である。 <br /> それにしても、ラテンはいいね。巻頭に川端康成の「眠れる美女」が引用されてるけど、同じ“老いらくの恋”にして、この湿度の違い!まぁ、俺は日本人なんで、川端の描く“老いらく”も理解できるけど、自らにその資質がないだけにガルシア=マルケス描くところのカラッとした“老いらく”に憧れるんだよなぁ。もちろん、ガルシア=マルケスの描く“老い”にも悲しい要素はあるけれど、そこにはユーモアがあるもん。あぁ、日本にも、あかるくてユーモラスな“老いらく”があった、あった!小島功の「仙人部落」。俺も、こんなジジイ達になりたい。ユートピアだね。

 「満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた」。 <br /> 本書は主人公のこんな怪しげな独白で始まります。老年の男のうら寂しさと濃厚なエロスとを想像させないではない書き出しです。しかし、130頁に満たないこの物語の果てに私を待ち受けていたのは、これ以上ないほどの清々しい読後感でした。 <br /> <br />主人公はこれまで一度も結婚することなく、娼婦などと金銭的関係を結んで生きてきた老人です。そんな彼が卒寿を迎える日に自分に贈る「うら若い処女」は、なんと十四歳。「ひとつ間違えば三年食らい込むことになる」と娼館の女主人も心配するほど。 <br /> <br /> この現実離れした設定といい、読者である私の倍以上の年齢の主人公といい、果たしてどこまでこの物語に感情移入できるものであろうかと、恐れにも似た思いを抱えながら頁を繰り始めましたが、いやいやどうして何の問題もなくこの老人に心がすっと重なっていきました。 <br /> デルガディーナと名づけた十四歳の少女と主人公の間に展開されるのは、ごくごく普通の思慕や嫉妬です。胸ときめく恋心とはもはや縁遠いかと思われる老境にあっても、主人公が感じるのは彼自身も驚くほど身を焦がすような恋わずらい。「嫉妬というのは真実以上に知恵が回るもの」こんな箴言風の言葉を織り込みながら、ガルシア=マルケスは諧謔味あふれる筆致で、読者に素敵な恋物語を差し出して見せるのです。 <br /> <br /> 物語の幕切れはこの上なく素敵です。胸を張って生きる主人公の姿が思い浮かび、心洗われる思いがします。 <br />

川端康成「眠れる美女」の冒頭が頭に引用されていました。 <br />そしてこの小説自体も、 <br />「満九十歳の誕生日に。うら若い処女を狂ったように愛して、 <br />自分の誕生祝いにしようと考えた」と刺激的に始まります。 <br /> <br />主な登場人物は、年老いて娼家を営む旧知の女と、 <br />やっと女らしい体になったばかりで男を知らない美しい娘、 <br />そしてこの娘に恋をしてしまう90歳の老学者だけ。 <br />この老人の恋心が、なんとも言えずにせつないのですが、 <br />小説を読んでいて思い出すこともいくつかありました。 <br /> <br />「人は自分の内側から老いを感じるのではなくて、 <br />外側にいる人たちがそう見なすだけの話よ」 <br />娘を思うあまりに自分の年齢を恥じはじめた主人公を、 <br />娼家の老女はそう言葉を掛けて力付ける。ここには <br />彼の援助を必要とする「貧しい娘」の設定はあるけれど、 <br />娘と心を通じ合わせて幸福になる、男の本質が押さえてある。 <br /> <br />死を前にしてこそ、本当に大切なものが見えてくる。 <br />その大切なものをしっかりと捕まえることに遠慮は要らない。 <br />この小説の持つ毒は夢のようにロマンチックでありながら、 <br />それが90歳を過ぎて死に近付いた男の叫びであるところが、 <br />なんとも不気味な、この小説の恐ろしさでもあるようです。

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